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最高裁判所第一小法廷 昭和30年(あ)3255号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役四月及び罰金五〇〇〇円に処する。

右罰金を完納することができないときは金二〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人神川貫一の上告趣意は、先ず賍物牙保の点につき違憲をいうが、被告人の自白が所論のごとく強制によるものであることは、これを認むべき証拠がないから、その前提を欠くものであり、その余の同点に対する所論は、単なる訴訟法違反、事実誤認の主張を出でないものであり、次に煙草専売法違反の点につき判例違反をいうが、所論判例は、本件に適切でないから、その前提を欠くものであり、同点に対するその余の主張は、事実誤認、単なる法令違反の主張を出でないものであり、また、被告人本人の上告趣意は、事実誤認の主張に帰し、すべて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

しかし、職権をもって調査すると、たばこ専売法二九条二項の販売とは、不特定、多数人に対してなす目的を以てなされる有償的譲渡行為を指すものであることは、当法廷の判例とするところである(判例集一一巻三号一二七五頁以下参照)。しかるに原判決の引用した第一審判決の判示第二事実中の金恒渡外一名が権奇雲に本件煙草を売り渡した行為が右のごとき不特定、多数人に対してなす目的を以てなされた有償的譲渡行為であることは、一件記録に徴してもこれを認めることができない。果たして然らば、同判示のごとく被告人がこれを周旋をしたとしても、同条項の販売をし又はこれを幇助したものということができない。従って、この点の被告人の所為は、罪とならないものといわざるを得ない。それ故、原判決には、刑訴四一一条三号又は一号にいわゆる判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認又は法令の違反があって、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。

よって、原判決を破棄し、同四一三条但書により直ちに判決をするに、被告人の賍物牙保の所為は、刑法二五六条二項、罰金等臨時措置法二条、三条に該当するところ、被告人には、第一審判決判示の前科があるから、同法五六条、五七条に従い懲役刑につき累犯加重をした刑期、並びに、前示罰金額の範囲内で被告人を主文二項の刑に処し、罰金を完納することができないときは同法一八条により被告人を主文三項の期間労役場に留置すべく、訴訟費用については刑訴一八一条を適用すべきものとし、また、たばこ専売法違反の所為については、刑訴四一四条、四〇四条、三三六条により無罪の言渡をしなければならないところ、同違反の点は、前記賍物牙保の所為と一個の行為にして二個の罪名に触れるものとして訴因、罰条を追加したものと認められるから、特に主文において、無罪の言渡をしない。

この判決は、裁判官岩松三郎が退官につき合議に関与しないほか、裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎)

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